「.Relax」編集部スタッフ・丸山雅代が、注目選手を密着取材。その人物像に文章で迫ります! Vol.2 豊田亜友子(Ayuko Toyoda) & 西村麻希(Maki Nishimura) 「日本が世界で4位になるためには、ゴーリーがかわらなきゃダメだ。」
石川貴一・日本代表ゴーリーコーチは、チーム発足当初にこう述べた。日本女子代表は「Shoot for the Top4」を掲げ、世界で4位以内を目指している。石川コーチが4位をとるために代表のゴーリーに求めるのは「真の意味でDFの中心になること」。世界では日本ほどゴーリーにDFとしての役割求めていないが、日本ではそこが追求される。
豊田亜友子 西村麻希チーム発足から、順次入れ替えを行いながら4〜5名で推移してきたゴーリー候補選手。昨年11月の関西遠征からは3名に絞られ、最終的に選ばれたのは共に学生の、立教大学4年生の豊田有友子と慶應義塾大学4年生の西村麻希のふたりであった。豊田有友子は170センチと長身で、それを生かしたセーブが持ち味だ。石川コーチはそれを「時に哀愁が漂うセーブ」と表現した。西村麻希は、大胆なフィールドプレーを得意とし、「クリースを出てフィールドでプレーするのが好き」と述べた。石川コーチもそんな西村麻希について「そのフィールドプレー能力はDFが一人増えたのと同じ。もはやただのゴーリーでなく、”ゴーリーフィールダー”とでも名付けたいね。」と賞賛した。石川コーチを「師」と仰ぐ日本を代表するふたりのゴーリーは頼もしくも次の様に述べた。「ボールを怖いと思ったことはない。」と―――。「ゴーリーはね、1番守られてるんだよ。」豊田有友子はこう続け、西村麻希はその言葉に深く頷いた。
ふたりはユース、U21、そして代表候補と、選ばれるときはいつも一緒だった。合宿等で部屋が一緒になることも多く、互いに気兼ねしない仲だという。同じチームにいるときはよく戦術を話し合ったりもするが、自分の大学に戻るとそこは関東学生ラクロスリーグの1部でライバル同士の立教大学、慶應義塾大学。個人的にも良きライバルだと認め合う。当初のゴーリー候補の中には社会人で、クラブチームで活躍している選手も含まれ、学生であるふたりが代表選手に選ばれるのに、社会人はまず最初の壁であった。比べられることもあった。しかし、ふたりはその壁を乗越え、代表の正ゴーリーの座を勝ち取った。
しかし、壁はこれだけではなかった。
豊田有友子は、昨年11月末に行われた関西遠征1日目で、小さなことから精神的にガタガタになってしまい、コーチからも指摘を受けた。メンタルの弱さを痛感したが、2日目には切り替えることができ、自分の得意なプレーも出せた。自分の弱い部分を指摘されたことで、自分の強みがここで初めて自信へとかわり、関西遠征が1番の転機だったと振り返る。
西村麻希も自分への課題としてメンタルの弱さを挙げた。去年、層の厚い慶應義塾大学で、スタメンから外された。「代表なのに外されてしまった」、「けれども代表の練習があるから自分のチームの練習に全て出ることが出来ない」という焦燥感。転機となったのはリーグ戦最終試合、ファイナル4の対日本体育大学戦。4点リードされている時に交代で入り、試合は結果的に負けてはしまったが、自分の力を出し切ることが出来た。最大の転機となったウェールズ遠征では、「どうしても正ゴーリーになりたい」と、この遠征に全てを賭けようと決めて臨んだ。日本ではユースやU21時代の友人と戦わなくてはならず、やりにくさを感じていたが、相手が外国人だと思い切りプレーができたと振り返った。
ウェールズ遠征で得たものはふたりともに大きいようで、豊田有友子はこの遠征で実際ウェールズ、スコットランド、イングランドと戦って、「日本のプレーが世界に通用する」、「世界で4位に入れる」、と手ごたえを感じた。ゴーリーだけを見ても差を感じなかったという。外国人のシュートに関しては、振りの速さ、打点の高さでは外国人の方が上だが、コースなどのシュートの巧さは日本の方が上だ、と断言した。「どんちゃん(日本代表のAT和田亜紀子選手)のシュートの方が止めるの難しい!!」とふたりは苦笑いした。 自分のチームの練習、日本代表の練習、アルバイト等多忙であるが、立教大学・慶應義塾大学、と共に高学な二人。豊田有友子は文学部の教育学科、西村麻希は法学部法律学科でそれぞれ授業とラクロスの練習との両立もしていて、就職活動も順風満帆。しかし、自分のチームと代表チームの両立はなかなか難しいようだ。
立教大学の副キャプテンである豊田有友子は、土日に日本代表の練習に参加し、自分のチームの練習やミーティングに参加出来ないことで、他の幹部メンバーに負担をかけざるを得ない、といった申し訳なさを感じている。
一方の西村麻希にしても、後輩の成長など、チームをもっと見たい、と自分のチームとの両立の難しさを痛感した。自分のチームの協力や応援がなかったら代表選手にはなれなかった、とふたりは声を揃えた。コーチ陣、チームメイト、全国のラクロスプレーヤーといった、たくさんの人の応援、期待、そして日の丸を胸に、このふたりが日本のゴールを死守する。ワールドカップまで残すところあと1ヶ月。日本の守護神に期待したい。
Text & Photo by 日本ラクロス協会広報部「.Relax」編集部・丸山雅代
Photo by 女子日本代表サポートマネージャー・橋本薫