2010年男子日本代表・スタッフコラム このページでは、男子日本代表チームをスタッフの目線から紹介します。 第2回:ストレングスコーチ・高橋一郎 ・出身:東京リゾート&スポーツ専門学校
・経歴:2004/2005/2006年男子日本代表トレーナー、
2007年U-21男子日本代表ストレングス&
コンディショニングコーチ
・勤務先(現在の契約業務):
プロテニスプレーヤー3名、その他ジュニアプレーヤーの育成
高校を中心とした各競技の
ストレングス&コンディショニングコーチ
パーソナルトレーナー活動(ゴールドジム・ティップネス)
病院と提携したウォーキング、ランニングクリニックの展開 他
・所属:日本ラクロス協会私は2006年の世界大会にトレーナーとして帯同し、それまでに活動をしてきたプロセスやカナダで体感した事、ラクロスでお世話になった思いを還元すべく、2009年よりこのチームにストレングスコーチとして参加させていただく事となりました。 「トレーナー」から「ストレングスコーチ」としたのは、一流のラクロスプレーヤーを育成するのではなく、世界で戦える一流の「アスリート」を育成していくために、「コーチ」とした立場からトレーニング、コンディショニングの重要性をもっと啓発していきたかったからです。
男子ラクロスの競技特性は見た目にも現れている通り、アメリカンフットボールの様な上半身、バスケットボールの様な短パンの下半身、サッカー用スパイクでも可能な足元、両手を支配するのはクロスと言う名の棒を持ったラケットスポーツです。
動き方では、フルフィールド局面ではサッカーやラグビーの様な体力要素を要し、ハーフフィールド局面ではバスケットボールの様な緩急のあるクイックネスと戦略が必要不可欠です。ボールはテニスや野球に見受けられる様な、スピード感、距離感で展開しています。
コンタクトが激しいところがアメリカ発祥の匂いを感じさせます。このように掘り下げれば、ラクロスというスポーツには様々な体力要素(俗に言うフィジカル面)を要する事が分かります。
個人的には2006年の世界大会、フィジカルに力を入れ努めてまいりましたが、諸外国チームは人種や体格では済まされないほどの基本的なフィジカルを身に着けておりました。アメリカ、カナダなどはもちろんですが、日本が倒さなければならないオーストラリアのフィジカルパフォーマンスが高く(パワー、走力、ストップ・カットの精度等)、ゲームに大敗し、案の定オーストラリアの代表選考はフィジカル面で選抜していたという情報を聞き、なおさら悔しくてなりませんでした。
しかし、考えてみるとどうせ日本人は小さいから・・・は、あまり言い訳にならない面が多々あります。我が国で活躍するスポーツといえば、野球、水泳、柔道などが代表的です。いずれも世界一になれる実力があるといえるでしょう。これは、日本では有望なタレントがメジャーなスポーツに引き寄せられる傾向があり、一貫した教育体制が出来ているからでしょう。どの競技にも一貫した教育体制がしっかり整えさえすれば、子どもたちは夢や憧れを持ち、競争も激しくなり、人種に関係なくパフォーマンスの高い選手を輩出することが可能となるはずです。
冬季オリンピックの韓国勢の金メダルラッシュ、女子テニス全豪オープンではベスト4に中国人2人など今年に入ってもアジア人の世界レベルの快進撃は続いています。人種が違うから・・・では通用しない時代になってきているかも知れません。同じアジア人として、他の活躍を見る限り、日本の男子ラクロスであっても世界のトップに立てる可能性は十分あると信じております。
また、小さいからこそ生まれる速さ、敏捷性は世界に通用する部分も多々ありますし、前大会でも最低限戦えた部分の一つだと思います。しかし、早いがゆえに止まれない、緩急が少ない、諸外国チームも走りあえる脚力を十分備えているため走り勝てなかった。と言った点がまだ日本のウィークポイントであると実感しました。
技術面、戦術面にあわせ体力面のウィークポイントの底上げこそ日本ラクロスの競技力向上の鍵を握っています。そのような思いを抱き、このチームで活動している主な取り組みです。
・代表活動では私の知っているトレーニングネタをどんどん披露していく場ではなく、また自分の
経験のために・・・という思いを完全に排除し、選手一人一人の置かれている状況をよく考え、
現実的な課題を提供しフィジカルを確実にあげることに気をつけました。
それでもチーム全員が確実に目標達成できるという訳ではありませんし、全員が課題をクリアした
からといって世界三位になれるという保証もありません。
このチームは若い選手とベテランがはっきり分かれているのが特徴ですので積極的に選手と
コミュニケーションをとり、個別に相談にのる事を特に意識しています。
本番には選手自身が自信を持った状態で臨んでもらう事が私の仕事だと思っております。・20mシャトルラン
日本のライフラインの一つでもある走力の向上を目的とし、心肺機能を側定しながらトレーニングも
兼ねる良い方法であり、日本に多く普及しているので選択しました。日本にとどまらず世界のどの
競技団体でもビープテスト、YOYOテストなどと名前を変え定期的に実施する事がスタンダードに
なりつつあります。
日本代表ではAT135、MF155、DF135、G125を目標に皆さん日々励んでいる最中です(必死)。・体組成側定・柔軟性側定
このチームのフィジカル面の最終目標として、残念ながら短期間で外人のようなバルクアップ、
パワーアップを目標としていません。今あるキャパシティを最大限に活かそう、ということをテーマに
取り組んでいます。つまり自分の筋肉、心肺機能をロス無く使いこなすという事で、それは日本の
特徴をどんどん活かせる体づくりを意味しています。
また世界大会の連戦に向けたパフォーマンス維持、怪我対策でもあります。BMIや体脂肪、柔軟性の
各合格ラインを具体的に設け、取り組んでもらっています。
何よりもこれを実行することで自分の体に興味を持ってもらうことが最大の理由です。 (これも意外と皆必死)
サイズが小さくてもOKな忍者枠というのも設けました。忍者のようにスイスイ動く選手にも期待してください!・各種ポジション別トレーニング
本格的な競技ではポジション別にトレーニングすることも珍しくなく、より専門的でより効率が
良い取り組みだと思いますので、ラクロスにも今後普及の思いをこめて、時間のあるときに
少しづつチャレンジしています。
ATとMF、DF、G、FO(フェイスオファー)で分けて実践しています。中でも菅井コーチが力を入れて
いるFOに関しては私も一緒に考える機会をいただき、今活動のおなじみトレーニングとなってきました。
相撲のような要素をヒントに股関節強化と柔軟性獲得に取り組んでいます。
NinjyaやSumoをテーマに、おまけにセットプレーなどでも忍者用語が含まれ、いろんな意味で
日本の特徴を活かしているので、ご注目ください!近年、多くの競技にトレーニングの重要性が浸透され始めている中、ラクロスは大学から始める競技者が多く、どうしても技術面に時間を割く事が優先されてしまいます。最初に述べましたように、ラクロスには様々なフィジカル面を必要とするスポーツでラクロスこそトレーニングを!と願うばかりです。将来、普及の先に中学高校で技術面をおさえ、その次のフェーズとして早い段階でフィジカル面の強化に時間を割く日が来ることを願ってやみません。
今回の代表活動を通して、少ない時間ではありますが、トップのラクロスプレーヤーひとりひとりのフィジカルが変化していくことで、今後のラクロス界においてもフィジカルに対する意識の底上げの一端を担うことができれば幸いです。
日本代表として誇りを持ってワールドカップに望みます。少しでもフィジカル要因の活躍か生まれるよう一生懸命サポートしてまいりますので、応援宜しくお願いいたします!
Text:男子日本代表アシスタントコーチ・高橋一郎
Photo:日本ラクロス協会広報部「.Relax」編集部・大木佳奈